―しがない農学徒の雑記帳―

しがない農学徒が日々思うところを書き散らします。

項目

昆虫の色空間

本文に先立ち、本項は完全に管理人の趣味の世界で、学術的な意義(論文誌に掲載され科学者共同体に受容される事)は(たぶん)無い事をことわっておきます。

導入

昆虫の視る色の数値化の項で、昆虫の視る色は 3 つ組 (QUV, QBlue, QGreen) に対応づけられると解説しました。つまり、色は 3 次元空間上の座標に対応づけることができます。 ここで、3 次元空間の中で、色はどのような領域にわたって分布しているのか? という疑問が生じます。ちなみに、色をグラデーションに沿って配置したものを色空間といいますが、この言葉を用いると、先ほどの疑問は「昆虫の認知する色空間はどの様な有様か?」となります。こんな疑問が生ずるのは筆者だけかもしれませんが、本項ではこの疑問に答えようと計算機実験を行いました。

計算機実験


図1

図2

図3

図4

図4を見ると、色は決して立方体全体に分布するのではない事がわかります。これは、図1に示されているように、視感度曲線同士がある程度の重なりを持つため、ある視細胞だけがフルに興奮するが他の視細胞が全く興奮しないという状況が生じ得ない為ではないかと筆者は考えています。では、色が分布する領域はどのような形状をしているのかが問題となりますが、どうやら、平行六面体のような形状をしているらしいです(図5)。


図5a 図4を回転させてみた。ずっと見ていると 3D 酔いを起こす恐れがありますので注意してください。
図5b 図4を様々な方向から眺めた図。
これが本当に平行六面体なのかは、残念ながら私の数学力では分かりません。もし平行六面体であると仮定して、さらに問題となるのは、その潰れ方だと思います。そこで、図1における、青い曲線を固定し、紫と緑の曲線を動かしたときに、図4がどうなるのかを調べてみました。


図6(a)

図6(b)

図7(a)

図7(b)

図8(a)

図8(b)
図 6 から図 8 に向けて、紫と緑の視感度吸収曲線を青から離していきました。これにつれて、色空間はより大きく拡がるように見えます。つまり、色空間の拡がり方は視感度吸収曲線の重なり方に依存するといえます。色空間が広くなるという事は、つまり、色同士の距離が大きくなり、色同士を識別しやすくなる、あるいは色に関する分解能が高くなる事を意味すると思われます。では、視物質の最大吸収波長が離れれば離れるほど良いかといえば、そうではないと思われます。といいますのは、あまりにも離れ方が大きくなると、今度は曲線がカバーしきれない空白の波長領域が生じ、不都合が生じると考えられるからです。 従って、色に関する分解能とカバーできる波長領域との兼ね合いで、現在の生物の視物質のレパートリーが決まったのだと考える事ができるでしょう。

まとめ

参考文献