生物学をやってると、植物とか昆虫の成長具合を測定しなければいけない局面があります。重量で測定するのが普通だと思いますが、それでも色々な指標を考えることができます。以下に思いつく限り挙げた上で、どの指標を用いるのが良いのかを本項では考察します。なお、各指標の名称は筆者が勝手に名づけたものです。
成長量が重量の単なる差分を表し、成長量を測定の時間間隔で割った値が成長速度です。例えば、500 mg のイモムシ(鱗翅目幼虫)が 7日後に 800 mg に成長したときの成長量は 800 - 500 = 300 mg であり、成長速度は 300 mg / 7 day = 42.9 mg/day です。
成長量も成長速度も分かりやすい指標ではありますが、問題点があります。例えば、同じ 300 mg の成長でも、500 mg から 800 mg に成長する場合と、1,000 mg から 1,300 mg に成長するのとでは、300 mg の重みが異なります。実際、前者では 800/500 = 1.6 倍に成長したのに対して、後者では 1,300/1,000 = 1.3 倍の成長です。この重みは、初期の重量に依存するため、初期値で標準化したのが、相対成長量、あるいは相対成長速度です。
ここで天下り的ですが、相対成長速度について の極限をとってみます。すると、
すなわち、
ここで、 と
という 2 つの相対成長量が出てきました。前者を離散的相対成長量、後者を連続的相対成長量と名付けなおします。離散的相対成長量と連続的相対成長量、どちらが成長の指標に相応しいのでしょうか。
この問題を検討するために、次のような場合を考えます。ある人が最初 50 kg だったが 60 kg に太り、その後再び 50 kg の体重に戻った。このとき、増量したときも減量したときも、その変化量は共に 10 kg です。離散的相対成長量で増量時と減量時を比較してみると、増加時は (60-50)/50 = 0.2 でありますが、減量時は (50-60)/60 = -0.167 です。変化量の絶対値は同じはずなのに、増量時と減量時との間で離散的相対成長量の絶対値が異なってしまいます。一方、連続的相対成長量の場合、増量時は ln(60/50) = 0.182 であり、減量時は ln(50/60) = -0.182 です。連続的相対成長量は変化量の絶対値の等しさに対応しています。このような側面があるゆえに、成長の指標としては、連続的相対成長量 が他の指標に比べて良いのではないかと思います。